射出成形の過去データを次の条件出しにどう使う?成形条件と品質結果の比べ方

射出成形の条件と測定結果はデータとしてある。しかし、次にどの条件を試せばよいか迷うことがあります。

成形品の寸法を30.00 mmに近づけたい。
過去データに30.02 mm、29.99 mm、30.04 mmという結果があれば、まず30.00 mmに近いデータを探せます。 そこから反り、材料Lot、成形機、成形条件まで比べると、次に試す条件候補を考えやすくなります。

射出成形の条件出し全体と、条件と結果の残し方については、射出成形の条件出し、どう進める?成形条件の決め方とデータの残し方で整理しています。

結論

先に答え

一つの進め方として、次の順で考えます。

  1. 欲しい結果に近い過去データを探す。
  2. 反りなど他の品質、材料、設備の違いを確認する。
  3. 成形条件を比べ、次に試す条件候補を考える。
  4. 実際に成形して結果を確認し、その結果を次の判断に使う。

条件項目やデータ数が増え、比べにくくなった場合は、過去データから予測モデルを作って候補を評価する方法もあります。

01

目標値から探す

欲しい結果に近いデータを探す

次のような過去データがあるとします。主目標は寸法を30.00 mmに近づけること、反りは0.30 mm以下とします。

データ金型温度保圧材料Lot成形機寸法反り
A70℃55 MPaL01成形機130.08 mm0.25 mm
B75℃58 MPaL01成形機130.02 mm0.28 mm
C80℃60 MPaL02成形機229.99 mm0.42 mm
D78℃57 MPaL01成形機130.04 mm0.31 mm

この例では、1行を一つの成形条件で得た代表値とします。

まず寸法だけを30.00 mmと比べます。

データ寸法30.00 mmとの差
A30.08 mm+0.08 mm
B30.02 mm+0.02 mm
C29.99 mm-0.01 mm
D30.04 mm+0.04 mm

30.00 mmに最も近いのはCの29.99 mmです。まずCを候補に残します。

02

候補を絞る

候補になったデータの違いを見る

寸法に加えて、反り、材料Lot、成形機を並べます。

データ寸法反り材料Lot成形機
B30.02 mm0.28 mmL01成形機1
C29.99 mm0.42 mmL02成形機2
D30.04 mm0.31 mmL01成形機1

Cの寸法は29.99 mmですが、反りは0.42 mmで、目標の0.30 mm以下には入っていません。Bは寸法30.02 mm、反り0.28 mmです。

今回使う材料LotをL01、成形機を成形機1とすると、Bはどちらも今回と同じです。次の出発点はBの75℃、58 MPaとします。寸法が30.00 mmに近く、反りが0.30 mm以下で、材料Lotと成形機も今回と同じためです。

Yagiらは別の材料Lotで候補条件を実成形し、Kvaktunらは成形機、金型、材料を変えた条件でモデルを評価しています。[1][2] 過去データを参考にするときは、目標値への近さだけでなく、材料や設備などの違いも確認します。

03

次の条件

成形条件を比べて、次に試す条件を考える

Bと、同じ材料Lot、成形機で得たA、Dを並べます。

データ金型温度保圧寸法反り
A70℃55 MPa30.08 mm0.25 mm
B75℃58 MPa30.02 mm0.28 mm
D78℃57 MPa30.04 mm0.31 mm

A、B、Dでは、金型温度だけでなく保圧もそれぞれ違います。そのため、寸法の違いが金型温度によるものなのか、保圧によるものなのか、この表だけでは判断できません。

そこでBと同じ75℃、58 MPaをもう一度試し、Bに近い結果が得られるかを確認します。その結果を見たうえで、保圧を58 MPaに固定し、金型温度だけを1℃変えた76℃、58 MPaを試します。

04

実成形で確認

実際に成形して、結果を追加する

まず、Bと同じ75℃、58 MPaでもう一度成形し、過去のBに近い結果が出るかを確認します。今回の結果をEとします。

データ金型温度保圧寸法反り
B75℃58 MPa30.02 mm0.28 mm
E75℃58 MPa30.03 mm0.29 mm

同じ75℃、58 MPaで、寸法はBが30.02 mm、Eが30.03 mm、反りはBが0.28 mm、Eが0.29 mmになったとします。反りはいずれも0.30 mm以下です。

次に76℃、58 MPaを試します。

データ金型温度保圧寸法反り
E75℃58 MPa30.03 mm0.29 mm
F76℃58 MPa30.01 mm0.29 mm

Fの寸法は30.01 mmで、Eの30.03 mmより30.00 mmに近い結果になったとします。

今回の結果では、76℃・58 MPaの方が30.00 mmに近くなりました。ただ、2回の結果だけでは、金型温度を1℃上げたことが寸法変化の原因とは言い切れず、76℃・58 MPaが最も良い条件かどうかも、さらに確認が必要です。

Fは新しい成形データとして記録し、必要なら次の条件を考える材料にします。

OkaとUchiyamaは、実成形した結果を使いながら次の条件を逐次提案する方法を射出成形で検証しています。[3]

05

組み合わせが増えたら

人の目だけでは比べにくくなった場合

4件のデータと2項目程度の条件なら表でも比較できますが、条件が増えると検討する組み合わせは一気に増えます。

5つの条件について、それぞれ5通りの値を候補にすると、
5 × 5 × 5 × 5 × 5 = 3,125通り

3,125通りのすべてを成形するのは大変です。

このような場合、機械学習を使って、過去の成形条件と結果の関係をモデルに学習させる方法があります。そのモデルを使って、まだ試していない条件の結果を予測することができます。下記の表は、まだ実際には試していないGとHの条件について、機械学習で作った予測モデルが寸法と反りを予測した例です。

候補金型温度保圧樹脂温度射出速度冷却時間寸法予測反り予測
G77℃58 MPa215℃45 mm/s15 s30.00 mm0.29 mm
H77℃59 MPa215℃45 mm/s16 s29.98 mm0.34 mm

目標が「寸法を30.00 mmに近づける、反りは0.30 mm以下」なら、Gは実際に成形して確認する候補の一つです。

Yagiらは成形条件などのデータから成形品重量を予測し、目標重量に近い候補を実成形で確認しています。Leeらも多数の条件候補を予測で評価し、実験で確認しています。[1][4]

候補が多くなると、どの条件から試すかを人だけで決めるのが難しくなります。そこで予測モデルを用いて、それぞれの条件に対する結果を予測し、目標に近そうな条件を優先して選ぶ方法があります。

06

候補の見方

予測モデルで出した候補を見るときの注意点

過去データの範囲と、近くに実測データがあるか

予測値が目標に近くても、その候補の周囲にどの程度の実測データがあるかを確認します。

金型温度と保圧の過去実測点と、実測点に近い候補・周囲に実測点が少ない候補を示す散布図
図1候補条件と周辺の実測データの位置関係

図1では、候補Yの72℃、60 MPaは各軸の最小値〜最大値の範囲内ですが、周囲に実測点が少ない位置にあります。一方、候補XはB、D、Fに近い位置です。

機械学習で結果を予測する場合、候補となる条件が過去データの範囲内でも、その近くに実測データが少ないことがあります(候補Y)。こうした条件の予測結果は、近くに実測データが多い条件(候補X)よりも注意して見る必要があります。

Yagiらは、学習データとの近さを使ったApplicability Domain(適用範囲)を設定し、別の材料Lotで予測結果を検証しています。[1] ただ、適用範囲の中にある条件でも、実際の結果と予測がずれることはあります。

また、Cは材料LotがL02、成形機も成形機2で、他のデータとは条件が異なります。候補を判断するときは、金型温度や保圧の数値だけでなく、材料Lotや成形機が同じかどうかも確認します。

寸法以外の品質や不良

杉本らは、長繊維CFRTPの射出成形で、成形品の質量が大きくなると予測された14条件を実際に成形し、そのうち9条件でバリを目視確認しています。[5]

この研究結果からも、狙った品質だけで候補を判断せず、バリやヒケ、強度など、ほかの重要な項目もあわせて確認した方がよいと考えられます。

07

まとめ

過去データを次の条件出しへ使う流れ

今回の例では、次の順で過去データを使いました。

寸法30.00 mmに近いデータを探す → 反り、材料Lot、成形機も確認する → Bの75℃ / 58 MPaを出発点にする → 実際に成形して結果を確認する → 76℃ / 58 MPaのように次の条件を試す → 結果を新しいデータとして追加する。

条件が増えて表だけでは比べにくくなった場合は、予測モデルで未実施条件の結果を予測し、欲しい結果に近い条件候補を探す方法もあります。

条件候補を見つけた後は、実際に成形し、必要な品質を測定して確認します。

次のステップ

過去データから条件候補を探すUIDCS(逆設計・条件探索プラットフォーム)

表だけで条件候補を比べるのが難しくなったとき、その作業を支援するためにシムロンが開発しているのがUIDCS(逆設計・条件探索プラットフォーム)です。

UIDCSは、手元にある実験、製造、解析などの「条件」と「結果」のデータを使い、どのような条件のときに、どのような結果になったのかという関係を、機械学習によってモデルに学習させます。

そのモデルを使って、まだ試していない条件の結果を予測し、欲しい結果に近い条件候補を探すことを目的としています。

条件候補を先に絞ることができれば、多数の組み合わせを一つずつ検討する場合に比べて、条件検討、実験、測定にかかる負担を抑えられる可能性があります。

UIDCSで条件候補を比較し、最終的には実験、製造、解析などで結果を確認して採用を判断します。

UIDCSで「欲しい結果から、条件を探す」

手元の「条件と結果」のデータから、目標に近い条件候補を探すUIDCSを現在開発しています。

UIDCS紹介ページを見る

References

参考文献

  1. Yagi, D., Nakatsuchi, H., Shimada, R., Kobayashi, K., “Quality Stabilization of Molded Parts Made of Recycled Materials by Optimizing Injection Molding Process Conditions,” Seikei-Kakou, 34(11), 419–422, 2022. DOI: 10.4325/seikeikakou.34.419. J-STAGE
  2. Kvaktun, D., Müller, F., Schiffers, R., “Investigation of transfer learning with changing machine, mold and material combinations in injection molding,” Procedia CIRP, 126, 715–720, 2024. DOI: 10.1016/j.procir.2024.08.295. DOI
  3. Oka, H., Uchiyama, Y., “Machine Learning based Robust Optimization for Injection Molding,” Seikei-Kakou, 35(2), 60–62, 2023. DOI: 10.4325/seikeikakou.35.60. DOI
  4. Lee, C. et al., “Development of Artificial Neural Network System to Recommend Process Conditions of Injection Molding for Various Geometries,” Advanced Intelligent Systems, 2(10), 2000037, 2020. DOI: 10.1002/aisy.202000037. DOI
  5. 杉本貴紀, 渡邉竜也, 吉田陽子, 柴田佳孝, 足立吉隆, 「長繊維CFRTPの射出成形品質量の最適化における機械学習による成形条件の検討」, 成形加工, 36(9), 371–373, 2024. DOI: 10.4325/seikeikakou.36.371. DOI
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