射出成形で保圧条件を見直すとき、保圧時間を延ばすのか、保圧力を変えるのかで迷うことがあります。
たとえば、寸法Aの目標値を30.00 mm、許容差を±0.05 mmとする成形品があるとします。 保圧条件を変えたところ、成形品重量は増えたのに寸法は目標から外れた。 あるいは、寸法は目標範囲に入ったものの、指定位置にひけが残った。 こうした結果が並ぶと、次に時間を変えるのか、圧力を変えるのかを決めにくくなります。ひけや寸法不良などのトラブルが出て保圧条件を見直す場面でも、同じ問題が起こります。
保圧時間の影響を見るときは、保圧力を固定して保圧時間だけを変え、保圧力の影響を見るときは、保圧時間を固定して保圧力だけを変えます。 そのうえで、各試行の保圧条件、成形品重量、寸法A、外観の所見をExcelなどの表に同じ行で記録します。 寸法Aの実測値を目標範囲と比べ、重量の変化と外観も一緒に確認しながら、次に試す条件を決めていきます。
この記事で用いる寸法Aの目標値・許容差・実測値、保圧時間、保圧力、重量の数値は、比較方法を説明するための架空値です。
この記事は、こんな方におすすめです
- 射出成形の立上げや量産条件調整で、保圧時間と保圧力を設定している方
- 保圧条件を変えたとき、重量、寸法、外観のどれを見て次の条件を決めるか迷っている方
- 保圧条件と測定結果を見ながら、次に試す条件を決めたい方
この記事で分かること
- 保圧時間と保圧力を分けて試す進め方
- 保圧時間と成形品重量から、ゲートが固化する時間を確認する考え方
- 保圧力を変えたとき、重量、寸法A、外観を同じ試行で確認する方法
- 保圧条件と測定結果を一行に記録し、実測値と目標から次に試す条件を考える方法
- 試行結果が増えたとき、これまでのデータを使って次に試す条件を考える方法
保圧条件を決めるときの進め方
なぜ保圧時間と保圧力を分けて試すのか
Fitzgeraldらは、医療機器用の樹脂部品を別の成形機でも安定して製造するため、新しい成形機に合わせて成形条件を決める研究を行いました。従来使っていたArburg 221MからArburg 375 Vへ成形機を替え、Scientific Mouldingを用いて保圧時間や保圧力などの条件を検討しました。あわせてサイクルタイムも見直しました[2]。Scientific Mouldingは、射出速度、保圧時間、保圧力、温度などの工程データを測定しながら、成形条件を決めていく方法です。
研究では、材料の流れ方、ゲートが固化する時間、金型内の充填バランス、圧力損失などを個別に確認しました。保圧時間は0.5 sから始め、0.5 sずつ延ばしました。各設定で成形品重量の平均値と重量範囲を記録し、時間を延ばしても重量がほとんど変わらなくなるところまで確認しました。この試験がGate Seal Study(ゲートシール試験)です。
その後、Gate Seal Studyで定めた保圧時間を固定し、保圧力だけを変えて成形品重量を測るHold Pressure Study(保圧力試験)を行いました。時間の試験と圧力の試験を分けることで、保圧時間を変えたときの重量変化と、保圧力を変えたときの重量変化を別々に確認しています。
成形条件を決めた後は、32ショットを連続成形し、成形品重量と寸法を測りました。これにより、同じ条件で安定した結果が続くかを確認しました。研究全体では、元の工程よりサイクルタイムを12.05 s短縮し、44.15 sのサイクルタイムを得ています[2]。この研究では、保圧時間と保圧力を分けて確認した後、重量だけでなく寸法も測って成形条件を確認しています。
BASFのエンジニアリングプラスチック向け技術資料でも、ひけやボイドの原因候補として、冷却時の収縮を保圧で十分に補えていないことを挙げています。また、保圧力、保圧時間、ゲートが開いている時間、成形品形状、ゲート、圧力損失などを確認項目として示しています[1]。
これらの文献では、保圧時間と保圧力を分けて試し、各条件で重量や寸法がどう変わるかを確認しています。この記事では、この考え方を重量、寸法A、外観を同じ試行で記録する形に整理して説明します。
例として、成形後に確認する結果を、成形品重量、寸法A、指定位置の外観とします。寸法Aの目標値は30.00 mm、許容差は±0.05 mmとします。したがって、目標範囲は29.95〜30.05 mmです。
文献で用いられた考え方に沿って、試行は次の順で行います。
- 重量、寸法A、外観など、確認する結果を決める。
- 保圧力を固定し、保圧時間だけを変える。
- 各試行の成形品重量、寸法A、外観を同じ方法で測って記録する。
- 保圧時間を一つに固定し、保圧力だけを変える。
- 圧力を変えた各試行でも、成形品重量、寸法A、外観を同じ方法で測って記録する。
- 寸法Aの目標範囲と実測値、重量の変化、外観を見て、次に試す1条件を決める。
- 6で選んだ条件で実際に成形し、測定結果を試行表へ追加する。
ここでは保圧時間を変える試行をT1〜T5、保圧力を変える試行をP1〜P4と呼びます。 Tは時間を変える系列、Pは圧力を変える系列です。
保圧力を一つに固定
↓
保圧時間を変える T1〜T5
↓
保圧時間を一つに固定
↓
保圧力を変える P1〜P4
↓
寸法Aの目標範囲と実測値、重量、外観を確認
↓
次に試す1条件を決める
↓
実際に成形して結果を表などへ追加
保圧時間と保圧力の切り分け
T2とT3では、保圧力は同じで、変えたのは保圧時間だけです。 そのため、この2試行を比べると、保圧時間を変えたときに重量や寸法Aがどう変わったかを確認できます。
P系列では逆に、保圧時間を同じ設定にして、保圧力だけを変えます。 時間を変えた試行と圧力を変えた試行を分けておくと、どの設定を変えたときに重量や寸法がどう変わったかを試行表で確認できます。
T系列とP系列の違いを表にすると、次のようになります。
| 系列 | 試行 | 保圧時間 | 保圧力 | 成形品重量 | 寸法A |
|---|---|---|---|---|---|
| T系列 | T2 | 1.0 s | 50 MPa | 11.86 g | 29.93 mm |
| T系列 | T3 | 1.5 s | 50 MPa | 11.94 g | 29.97 mm |
| P系列 | P2 | 2.0 s | 50 MPa | 11.96 g | 29.99 mm |
| P系列 | P3 | 2.0 s | 60 MPa | 12.00 g | 30.03 mm |
T2とT3を見ると、保圧力はどちらも50 MPaで、保圧時間だけが1.0 sから1.5 sへ変わっています。一方、P2とP3では保圧時間はどちらも2.0 sで、保圧力だけが50 MPaから60 MPaへ変わっています。このように並べると、どの条件を固定し、どの条件を変えたときに重量や寸法がどう変化したかを確認できます。
保圧工程で確認するもの
充填後の保圧工程には、圧力をかけ続ける時間と、そのときに設定する圧力があります。 前者が保圧時間、後者が保圧力です。
溶融した樹脂が成形品側へ流れ込む入口をゲートと呼びます。 ゲート付近の樹脂が固まるまでの間、保圧条件を変えると成形品重量などの測定結果が変わる場合があります。
BASFのエンジニアリングプラスチック向け技術資料では、ひけやボイドの原因候補として、冷却時の体積収縮を保圧で十分に補えていない状態を挙げています。 同資料には、保圧力と保圧時間の見直しに加え、成形品形状、ゲート、圧力損失などの確認項目も示されています[1]。
ひけ、ボイド、寸法不良などの成形トラブルでは、保圧に加えて材料、製品形状、ゲート、金型温度なども原因候補になります。保圧条件を調べるときは、ほかの条件を同じ設定にそろえて試行結果を比べます。
保圧条件を見るときも、一つの設定値だけで判断せず、対象成形品の重量、寸法A、外観の実測結果を一緒に確認します。
時間系列(T系列)と圧力系列(P系列)
T系列とP系列では、変更する保圧条件を次のように分けます。
| 系列 | 主に変える条件 | 同じ設定にする保圧条件 | 各試行で記録する結果 |
|---|---|---|---|
| T1〜T5 | 保圧時間 | 保圧力 50 MPa | 成形品重量、寸法A、外観 |
| P1〜P4 | 保圧力 | 保圧時間 2.0 s | 成形品重量、寸法A、外観 |
50 MPaと2.0 sは説明用の架空値です。 この表を見ると、T系列では保圧時間だけ、P系列では保圧力だけを変えることが分かります。
T系列では、同じ材料ロットを使い、射出速度、V/P切替位置、樹脂温度、金型温度、冷却時間の設定値を記録します。 試行ごとの設定を記録しておくと、後から条件の違いを確認しやすくなります。 寸法は毎回同じ指定位置を測り、重量も同じ計量方法で記録します。
再生材の材料ロットが変わったときの確認方法は、再生材のロットが変わった。射出成形品の何を確認する?材料ロット変更時の比較と成形条件の見直しでも扱っています。
P系列でも、材料ロット、射出速度、樹脂温度、金型温度などの設定値と測定方法を同じように記録します。 変更した保圧条件と、それ以外の設定を一緒に残しておけば、試行ごとの条件の違いを後から確認しやすくなります。
保圧時間と成形品重量
保圧力を50 MPaに固定し、保圧時間だけを変えたT系列を見ます。 下表の数値はすべて説明用の架空値です。
| 試行 | 保圧時間 | 保圧力 | 成形品重量 | 寸法A | 外観所見 |
|---|---|---|---|---|---|
| T1 | 0.5 s | 50 MPa | 11.72 g | 29.88 mm | 指定位置にひけが見える |
| T2 | 1.0 s | 50 MPa | 11.86 g | 29.93 mm | ひけが見える |
| T3 | 1.5 s | 50 MPa | 11.94 g | 29.97 mm | ひけは軽微 |
| T4 | 2.0 s | 50 MPa | 11.96 g | 29.99 mm | 目立つひけなし |
| T5 | 2.5 s | 50 MPa | 11.96 g | 30.00 mm | 目立つひけなし |

T1からT4までは、保圧時間を延ばすにつれて成形品重量が11.72 gから11.96 gへ増えています。 T4とT5では、保圧時間が0.5 s違っても重量はどちらも11.96 gです。
注目するのは、同じ保圧力で時間だけを変えたときの重量変化です。 保圧時間と成形品重量を一組ずつ記録すると、時間を延ばしても重量がほとんど変わらなくなる領域を確認できます。
ゲートが固化する時間を重量から見る
保圧時間を段階的に変えて成形品重量を測る方法は、ゲートが固化する時間を確認するGate Seal Study(ゲートシール試験)などで使われています。Gate freeze-off(ゲートフリーズ)とは、ゲートが固まり、それ以降は保圧をかけても成形品へ樹脂がほとんど入らなくなる状態です。 ゲートが固化すると、保圧時間をさらに延ばしても、成形品重量が増えにくくなることがあります[2][3]。
Fitzgeraldらは、新しい成形機で使う条件を決める際、保圧時間を0.5 sずつ増やし、各条件の平均成形品重量と重量範囲を記録しました。 その試験で定めた保圧時間を固定した後は、保圧力を変えて成形品重量を測っています[2]。
HorváthとKovácsは、成形品を金型から取り出して計量する前に、その重量を推定する方法を検討しました[3]。成形サイクル中に品質を確認するため、金型内圧から成形品重量を予測することを目的とした研究です。型内圧の積分値だけを使う従来の線形モデルに対し、保圧力も使って重量を予測するモデルを検討しました。
実験ではABSとPPを使い、保圧力と保圧時間を複数段階で変えました。金型温度は40 ℃、溶融温度はABSで245 ℃、PPで235 ℃とし、各条件で型内圧と成形品重量を測定しています。これにより、同じ保圧力で保圧時間を延ばしたとき、重量がどのように変わるかも確認しました。
ABSでは4 s、PPでは7 sでゲートフリーズが起こり、それ以降は同じ保圧力で保圧時間を延ばしても成形品重量は増えませんでした。また、ゲートフリーズまでの範囲では、保圧時間が長くなるにつれて、保圧力ごとの重量差が大きくなりました[3]。
研究者らはさらに、成形サイクル中の型内圧を時間方向に積み上げた値(積分値)と保圧力を使い、成形品重量を予測する飽和曲線モデルを作りました。型内圧の積分値だけでは重量を十分に予測できず、保圧力も使うことで、製品を取り出す前に重量を推定する方法を示しています[3]。
重量が変わりにくくなった後の確認
T4とT5の成形品重量は、どちらも11.96 gです。 ただし、重量だけではT4とT5のどちらを残すか決まりません。
寸法Aの目標値は30.00 mm、許容差は±0.05 mmなので、目標範囲は29.95〜30.05 mmです。 T3の29.97 mmはこの範囲に入っていますが、外観には軽微なひけが残っているとします。 T4は29.99 mm、T5は30.00 mmで、どちらも寸法目標を満たし、外観も「目立つひけなし」とします。
この三つの測定項目だけなら、T4とT5はどちらも候補として残ります。 一方に絞るには、保圧時間を短くしたい、別の寸法も満たしたいなど、追加の評価基準が要ります。 この例ではその基準を設定していないため、T4とT5の優劣までは決められません。
次のP系列では、保圧力を変えたときの違いを見るため、保圧時間を2.0 sに固定します。
重量は、保圧時間の変化を見る一つの測定結果です。 同じ試行の寸法Aと外観も横に並べることで、重量が変わりにくくなった後に残っている差を確認できます。
保圧力と重量、寸法
T系列では保圧時間を変えました。次のP系列では、保圧時間を2.0 sに固定し、保圧力だけを変えます。 下表の2.0 sと40〜70 MPaも説明用の架空値です。
| 試行 | 保圧時間 | 保圧力 | 成形品重量 | 寸法A | 外観所見 |
|---|---|---|---|---|---|
| P1 | 2.0 s | 40 MPa | 11.90 g | 29.94 mm | 軽微なひけ |
| P2 | 2.0 s | 50 MPa | 11.96 g | 29.99 mm | 目立つひけなし |
| P3 | 2.0 s | 60 MPa | 12.00 g | 30.03 mm | 目立つひけなし |
| P4 | 2.0 s | 70 MPa | 12.03 g | 30.07 mm | 目立つひけなし |
P1からP4では、保圧時間を2.0 sに固定し、保圧力だけを40〜70 MPaで変えています。 そのため、保圧力と成形品重量、寸法A、外観所見を同じ行で確認できます。
寸法Aの目標範囲29.95〜30.05 mmと実測値を比べると、P1の29.94 mmは0.01 mm小さく、P2の29.99 mmとP3の30.03 mmは範囲内です。 P4の30.07 mmは上限を0.02 mm超えています。
この記事の例では成形品重量に目標値を設定していないため、重量だけで合否を判断するのではなく、寸法Aが目標範囲に入っているか、外観に問題がないかもあわせて確認します。
保圧力を変えた研究
Fitzgeraldらは、ゲートシール試験で定めた保圧時間を固定し、保圧力を変えて成形品重量を測るhold pressure study(保圧力試験)を行っています[2]。 時間の試験と圧力の試験を分け、圧力を変えた各条件で重量を測定した研究例です。
Zhil’tsovaらは、人工股関節用のHDPE製カップ(acetabular cup)について、射出成形条件の違いによって、寸法安定性、重量、外観がどのように変化するかを調べました[4]。射出速度、保圧力、保圧時間、ホットノズル温度の4条件のうち、どれが寸法や重量に強く影響するかを確認した研究です。
研究では、射出速度、保圧力、保圧時間、ホットノズル温度をそれぞれ変え、成形後の複数箇所の寸法、成形品重量、外観を確認しました。さらに、Moldflow Plastics Insight 6.1を使って成形サイクル全体を数値解析し、サイクル時間も検討しています。
結果として、検討した条件の中では、保圧力が寸法と重量に最も大きく影響していることが分かりました。保圧力を30 barから70 barへ上げた条件において、容積収縮率は11.75%から8.69%へ低下しました[4]。一方、射出速度を上げると、重量と多くの寸法は小さくなる方向に変化しました。ホットノズル温度と保圧時間の影響は、この研究で調べた範囲では小さいとされています。
この研究では、検討した4条件の中で、保圧力がHDPE製カップの寸法と重量に最も大きく影響しました。また、保圧力を変えた各条件で、重量だけでなく複数箇所の寸法も測定しています。この記事のP系列と同じように、保圧力と複数の測定結果を一緒に確認した研究例です。
一つの圧力系列で複数の結果を見る
P2の寸法Aは29.99 mm、P3は30.03 mmです。 どちらも目標範囲に入り、外観も「目立つひけなし」なので、この2条件は候補として残ります。
P4は外観だけなら「目立つひけなし」ですが、寸法Aは30.07 mmです。 寸法目標の上限30.05 mmを0.02 mm超えているため、この寸法を合否基準にする限り、P4は候補から外れます。
同じ試行の重量、寸法、外観を並べておくと、1項目だけでは見えない違いを確認できます。 どの品質項目を合否判定に使うかは、対象製品で設定した要求に合わせます。
試行ごとの記録
各試行では、保圧条件と、そのときに測定した重量、寸法A、外観を同じ行に記録します。T系列もP系列も一試行を一行にそろえることで、条件と測定結果を見比べやすくなります。
P2を例にすると、最低限の記録は次の形になります。 金型温度40 ℃と材料ロットM-01も説明用の架空値です。
| 試行 | 保圧時間 | 保圧力 | 重量 | 寸法A | 外観 | 金型温度 | 材料ロット | 次に確認する内容 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| P2 | 2.0 s | 50 MPa | 11.96 g | 29.99 mm | 目立つひけなし | 40 ℃ | M-01 | P3の寸法Aと目標範囲を比べる |
P2の一行を見れば、保圧時間2.0 s、保圧力50 MPaという条件と、重量11.96 g、寸法A 29.99 mm、外観所見を同時に確認できます。
寸法Aは、毎回同じ位置を同じ方法で測ります。 重量も同じ計量方法で記録します。 金型温度や材料ロットを変更した場合は、その設定値やロットIDを同じ行へ残します。 V/P切替位置、射出速度、樹脂温度、冷却時間なども、試行間の条件差を後から確認したい場合は列に加えます。
記録する項目は、品質を確認するために見る項目と、試行ごとの条件の違いを確認するための項目に絞ります。
条件表と測定表を分けない
保圧条件だけの表と、寸法や重量だけの表を別々に作ると、後から同じ試行を探して結び付ける作業が増えます。 一つの試行を一行にすれば、P2の条件とP2の測定結果を同じ場所で確認できます。
T系列とP系列を同じ列構成で残しておけば、時間を変えた試行と圧力を変えた試行を同じ形式で確認できます。 次に試す条件を決めるときも、過去に実測した条件と結果を同じ表の中で見比べられます。
次に試す保圧条件
P2、P3、P4の寸法Aを、目標範囲29.95〜30.05 mmともう一度比べます。
| 試行 | 保圧力 | 寸法A | 目標範囲 29.95〜30.05 mm | 次の判断 |
|---|---|---|---|---|
| P2 | 50 MPa | 29.99 mm | 範囲内 | 候補として残す |
| P3 | 60 MPa | 30.03 mm | 範囲内 | 候補として残す |
| P4 | 70 MPa | 30.07 mm | 範囲外 | この寸法目標では候補外 |
| P5(次候補) | 55 MPa | 未測定 | 未判定 | 実際に成形して確認する |
P2とP3は目標範囲に入り、P4は上限を0.02 mm超えています。 この例では、P2とP3の間で寸法Aがどう変わるかをもう一段細かく見るため、55 MPaをP5として追加します。
P5で変えるのは保圧力だけです。 保圧時間は2.0 sのままにし、材料ロットはP2、P3と同じものを使い、金型温度なども同じ設定にします。
実際にP5で成形した後、その実測値を新しい一行として試行表へ追加します。 P2、P3、P4と並べてから、P5を候補として残すか、別の圧力を試すかを判断します。
実際に成形して測定した結果を見ながら、次に試す条件を決め、保圧条件を絞っていきます。
射出成形の条件出し全体の進め方は、射出成形の条件出し、どう進める?成形条件の決め方とデータの残し方で扱っています。
試行が増えたときのデータ活用
P5までのように試行数が少ないうちは、表を見ながら次に試す条件を一つずつ選べます。
しかし、保圧時間や保圧力に加えて樹脂温度、射出速度、金型温度なども変えるようになると、条件の組み合わせは増えていきます。 さらに、確認する結果が重量、寸法、外観など複数になると、過去の試行表を見比べながら次に試す未実施条件を選ぶ作業も複雑になります。
各試行で記録した条件と測定結果のデータを使い、まだ試していない条件で重量や寸法がどうなりそうかを予測する方法があります。 この予測には、たとえば試行表の次の列を使います。
| 保圧時間 | 保圧力 | 金型温度 | 成形品重量 | 寸法A |
|---|---|---|---|---|
| 1.5 s | 50 MPa | 40 ℃ | 11.94 g | 29.97 mm |
| 2.0 s | 50 MPa | 40 ℃ | 11.96 g | 29.99 mm |
| 2.0 s | 60 MPa | 40 ℃ | 12.00 g | 30.03 mm |
| 2.0 s | 70 MPa | 40 ℃ | 12.03 g | 30.07 mm |
この例では、保圧時間、保圧力、金型温度を条件として使い、結果の項目には成形品重量と寸法Aを使います。
過去データから未実施条件の結果を予測する
こうした条件と結果のデータから、まだ試していない条件の重量や寸法を予測する方法の一つが機械学習です。
過去の実測データを次の条件出しへ使う流れは、射出成形の過去データを次の条件出しにどう使う?成形条件と品質結果の比べ方でも具体例を紹介しています。
機械学習では、過去の実測データを使い、保圧時間や保圧力などの条件と、重量や寸法などの結果との関係をコンピュータに学習させます。 学習した関係を使って、新しい条件を入力したときの結果を予測する仕組みが予測モデルです。
今回の保圧条件に置き換えると、流れは次のようになります。
過去に試した保圧条件と測定結果
↓
過去データから、条件と結果の関係を機械学習で学習し、予測モデルを作る
↓
まだ試していない条件を入力
↓
その条件での重量、寸法などを予測
予測モデルが出すのは、まだ試していない条件に対する結果の予測値です。 たとえば保圧力55 MPaの条件を評価する場合は、保圧力を55 MPaとした成形条件を予測モデルへ入力し、その条件での重量や寸法を予測します。
予測値を計算できても、実際の成形結果とのずれは残り得ます。 過去データの範囲、データ量、測定条件、対象とする成形工程などによって、予測値の信頼性は変わります。 候補となる成形条件は、予測結果を確認した後、実際の成形と測定で確かめます。
UIDCSで「欲しい結果から、条件を探す」
ここまでの例では、保圧時間や保圧力を変えて実際に成形し、寸法Aや重量の実測値を見ながら次の条件を選びました。試す条件が少ないうちは、試行表を見ながら候補を選べます。
一方、保圧時間、保圧力、金型温度、樹脂温度、射出速度など、検討する条件が増えると、まだ試していない組み合わせも増えます。重量や寸法など複数の結果まで見ると、試行表だけで次の候補を選ぶ作業はさらに複雑になります。
シムロンでは、この条件探索を支援するUIDCS(逆設計・条件探索プラットフォーム)を開発しています。UIDCSは、過去の実験、製造、解析などで蓄積した条件と結果のデータを使い、欲しい結果に近い条件候補を探すためのソフトウェアです。
保圧条件の例をUIDCSに当てはめる
次の表では、過去データの条件、過去データの結果、ユーザーが設定する目標、UIDCSから得られるものを分けて示します。
| 区分 | 今回の例 | 役割 |
|---|---|---|
| 過去データの条件 | 保圧時間、保圧力、金型温度など | どの条件で成形したかを表す |
| 過去データの結果 | 成形品重量、寸法Aなど | 各成形条件に対応する実測結果を表す |
| ユーザーが設定する目標 | 寸法A:目標値 30.00 mm 許容差 ±0.05 mm | 目標値と許容範囲を指定する |
| UIDCSから得られるもの | 複数の条件候補 各候補の予測結果 目標との差 | 次に実際に試す条件を選ぶために使う |
UIDCSでは、過去の条件と結果のデータから機械学習で予測モデルを作ります。ユーザーは、得たい結果として寸法Aの目標値や許容範囲などを設定します。UIDCSは予測モデルを使い、その目標に近い結果が予測される条件候補を探します。
候補として表示されるのは、保圧時間や保圧力などの条件値です。各候補には、その条件で成形した場合の寸法Aや成形品重量などの予測値も表示されます。予測するのは、候補となる成形条件で得られる寸法Aや重量です。30.00 mmという目標値は、ユーザーが設定する値です。
UIDCSから得られる候補のイメージ
下表は、今回の保圧条件をUIDCSで探索した場合の表示イメージです。候補A〜Cの数値は説明用の架空値です。実際の条件探索では、その製品について過去に記録した保圧時間、保圧力、金型温度などの条件と、重量や寸法などの測定結果を使います。ここでは、寸法Aの目標値を30.00 mm、許容差を±0.05 mmとしています。
| 候補 | 保圧時間 | 保圧力 | 寸法Aの予測値 | 目標値30.00 mmとの差 | 成形品重量の予測値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 候補A | 1.8 s | 52 MPa | 29.98 mm | -0.02 mm | 11.96 g |
| 候補B | 2.0 s | 56 MPa | 30.01 mm | +0.01 mm | 11.98 g |
| 候補C | 2.2 s | 54 MPa | 30.00 mm | 0.00 mm | 11.97 g |
UIDCSでは、複数の条件候補、各候補の予測結果、目標との差を同じ一覧で確認できます。複数の条件候補と予測結果を一覧で比較できるため、候補を一つずつ検討する手間を減らし、次に試す条件が選びやすくなります。
UIDCSが示す候補は、過去データと予測モデルに基づく成形条件の候補です。実際に試す条件は技術者が選び、成形後の重量、寸法、外観などを測って確認します。
この記事で作ってきたように、一試行ごとに保圧条件と測定結果を同じ行に記録しておけば、蓄積したデータを使って次に試す条件候補を検討しやすくなります。試行数や条件数が増えたとき、UIDCSは過去データを使って候補を絞り、条件検討にかかる手作業や時間を減らすことを目指しています。
UIDCS(逆設計・条件探索プラットフォーム)について
欲しい結果から、条件を探す。
UIDCSは現在開発中です。UIDCSの紹介ページでは、目標の設定から条件候補を探す流れ、複数候補と予測結果の表示イメージ、射出成形を含む具体的な使用例を紹介しています。
まとめ
保圧時間と保圧力を同時に変えると、重量、寸法、外観に変化が出ても、その変化が保圧時間によるものか、保圧力によるものかが判断しにくくなります。 時間を変える試行と圧力を変える試行を分け、各試行の条件と測定結果を同じ行に残すと、実測値を見ながら次に試す条件を選びやすくなります。
実務で使う流れは次の5段階です。
- 保圧時間を変える試行と、保圧力を変える試行を分ける。
- 保圧時間を変えたときは、成形品重量の変化を一つの手掛かりとして見る。
- 同じ試行で、対象製品の寸法や外観も測る。
- 変更した条件と測定結果を一つの試行の同じ行へ記録する。
- 目標と実測結果を比べて次の条件を選び、実際に成形して結果を確認する。
試行が増えた後は、蓄積した条件と実測結果から未実施条件の結果を予測し、目標に近い条件候補を探す方法も使えます。 候補を選んだ後は、実際の成形と測定結果へ戻って確認します。
References
参考文献・技術資料
- BASF SE. “Injection-Molding Problems in Engineering Thermoplastics: Causes and Solutions.” August 2009. BASF公式PDF
- Fitzgerald, A.; McDonald, P.; Devine, D.; Fuenmayor, E. “Transfer and Optimisation of Injection Moulding Manufacture of Medical Devices Using Scientific Moulding Principles.” Journal of Manufacturing and Materials Processing, 5(4), 113, 2021. DOI: 10.3390/jmmp5040113. DOI
- Horváth, S.; Kovács, J. G. “Real-time product weight estimation based on internal pressure monitoring in injection molding.” Polymer Engineering & Science, 65(4), 1693–1701, 2025. DOI: 10.1002/pen.27078. DOI
- Zhil’tsova, T. V.; Oliveira, M. S. A.; Ferreira, J. A. F. “Relative influence of injection molding processing conditions on HDPE acetabular cups dimensional stability.” Journal of Materials Processing Technology, 209(8), 3894–3904, 2009. DOI: 10.1016/j.jmatprotec.2008.09.018. DOI
